2014年6月14日土曜日

iFIオーディオ主任エンジニア、トルステン博士かく語りき(3)連載インタビュー

“私たちが、何が聴こえていて、何が聴こえていないのかを断言できるようになるまでには、まだまだ多くの研究が必要です。”

電気信号を厳密に見ていくと、サンプリングレートを高くし、ビット数を増やすことによって、録音された電気信号をオリジナルの音響により近く似せることができるということが、簡単にわかります。適切なエレクトロニクスとスピーカー、またはヘッドフォンと組み合わせれば、高いサンプリングレートとビット数によって、オリジナルの音響に存在していた音場に、より近い音場を創り出すことができると、主張することができます。

人間の聴覚システムの、実際に動作する、信頼できるモデルを獲得する(つまりアンプ、スピーカー、ヘッドフォンなどが必要なくなり、単に神経システムへ直に接続できるようになる)までは、経験ある投資家は原音に最大限近づけるやり方、つまり、サンプリングレートとビット数を改善するという方法に乗っかるのです。しかもこの方法は、今ではそれほどむずかしいことではないので、なおさらそうするのです。

−−−− AMRの「デジタルプロセッサー777」は、音源に起因する“ジッターを実質的に除去する”“ゼロジッターモード”を搭載しています。そもそも、ジッターとはどういうものであり、なぜ除去する必要があるのか、お話しいただけますか?

ジッターに関しては、すでに十分に説明されていますが、恐らくその概念にはいまだ謎めいている部分があります。

DSDのことはひとまず置いておくとして、デジタルオーディオは、一定の正確さで絶対的な値として信号を記録します。この値をアナログ信号として復元することができる限りは、私たちはデジタルシステムの正確さの範囲内で、許される限りオリジナルの信号をこれと一致させようとするでしょう。

ただしこれは、それぞれのサンプルが完璧な周期を備えたAD変換において得られ、そしてまたそれが同様に完璧な周期で再生された場合のみに限られます。

仮にタイミング(計時)に変動があった場合、つまり、AD変換またはDA変換のどちらかが起こる“時に”変動があった場合は、結果に歪みが生じてしまいます。典型的な図をここに示します。


A)ジッターのないクロックで正しく再構築されたアナログ信号   B)ジッターのあるクロックで再構築されたアナログ信号

こういった種類の歪みを最小化する必要があることは明らかですが、最小限に止めるための方法と、タイミングの変動の起源に関する知識はまだ多くはありません。

DP-777では、ジッターを極小化するまったく新しいクロックシステムを開発・搭載しました。それは、入力されるクロックをきわめて長時間にわたって平均化し、それだけを探知するクロックなのです。クロックをコントロールするためのPLLや、あるいはそれに相当するコントロールループを使わず、代わりに制御はノンリニアのファジー論理を基盤にしています。これにより、制御システムがメモリバッファの正確な動作を確保するためにクロック周波数を変える必要があると判断しない限り、クロックをしっかり固定する仕組みになっているのです。

“ついでに言っておきますが、フェムトクロックのジッター及びフェーズノイズはきわめて低いのです。しかし、実際に数フェムト秒のジッターが示されるのは12kHzを超えたあたりであり、これはつまり、可聴帯域の上限に向かうあたりでやっとジッターが観測できるということです。”

私たちが“グローバルマスタータイミング(GMT)”と呼んでいるこのクロックは、今はやりの、いわゆる“フェムトクロック”と同程度のジッター及びフェーズノイズを持っています。ついでに言っておきますが、フェムトクロックのジッター及びフェーズノイズはきわめて低いのです(訳注/フェムトは10の-15乗)。しかし、実際に数フェムト秒のジッターが示されるのは12kHzを超えたあたりであり、これはつまり、可聴帯域の上限に向かうあたりでやっとジッターが観測できるということです。これは、“フェムトクロック”が、10kHzを超えたあたりからノイズが一層低くなるのが理由です。そしてこのことは、それを意図したアプリケーション(ハイエンドオーディオではなく、インターネットのバックボーンとなっているSONET〔Synchronous Optical Network〕がそれです)にとっては、重要になります。

GMT(グローバルマスタータイミング)は、基板全体にわたって非常に低いジッターレベルであるため、影響を気にする必要がありません。私たちはこれをシンプルに“ゼロジッター”と呼んでいます。新しいクロックは概ね10分間前後で0.004ppm以下の変化となります。音源からのどんなクロック変動も、メモリーバッファに吸い上げられてしまいます。このバッファは、ビデオ再生時にリップシンクの問題を引き起こすことがないほどの短さであるとともに、どんな形体のジッターも吸収するほどの長さを持っているのです。

AMR’s Zero Jitter circuit = Immaculate Signal


−−−− AMRはデジタルプロセッサー「DP-777」の中で、基本的にCD品質のデータをより高いビット/サンプリングレートで処理するのではなく異なるチップセットで処理する“Gemini Digital Engine(GDE)”を採用しています。それぞれのビット/サンプリングレートに合わせて別々のチップセットを使う利点とは何でしょうか?

PCM、ビットストリーム、“ネイティブ再生”については先述した通りですので、古典的なマルチビットDACをCD再生に使う理由は明らかでしょう。他にどんな方法を使ったとしても、CD信号のために得られるものは何もないのです。

古典的な“ダイナミック・エレメント・マッチング”のフィリップスのCD-DACのような種類の音を提供してくれるチップの数は、非常に不足しています。すべてが10年ほど前に製造打ち切りになりましたが、そのすべてがフィリップスによって製造されていたのです。しかも、そのどれもが、16ビット以上では動作せず、他に似たようなサウンドのものはありませんでした。ですから私たちはこれ(フィリップスのCD-DAC)をCDの標準的な信号用に使っているのです。

しかし、より高い解像度やサンプリングレートをネイティブの解像度で扱う能力がないと、現代の信号には問題が生じるかもしれません。それゆえ私たちは、多大な時間をかけて、DP-777を将来も長い期間にわたって使うことができるように、“HD(高密度)信号”を扱うための優れた音質を提供してくれる現代のDACを探しました。そしてそうしながらもその一方で、CDやCDからリッピングしたファイルを再生する際に、古典的なフィリップスのDAC+真空管のCDサウンド(私たちのCDプレーヤーは当然ながらこれで有名であり、またこれで数多くの称賛と賞を獲得しました)を提供できるようにしたのです。

多くの点で、これはiFiのiDSDシリーズがDSDに適用される場合と同じ原理です。それぞれの種類の信号を、それぞれに最適な解決法で再生するのです。



−−−− iFiはUSB-DAC用のiUSB Powerも手がけています。USB DACへの電源供給の重要性についてお話いただけますか?

原理的に、USBとは単なるデータの通り道に過ぎません。ですからすべてのDACは、優れた電源供給をすれば、その恩恵を受けるのです。

USB接続とFirewire(現在はThunderbolt)接続は、どちらも電力を伝送し、また外部電源と電源ケーブルは現代のセッティングでは不便なので(そして間違いなくお金もかかります)、低予算のDACを作る際には、USBやFirewire(Thunderbolt)による電源供給を使うことは、自然な選択になります。それは、おそらくは高価なハイエンド装置ではあまり言い訳ができないのかもしれませんが、それでも、ハイエンド装置においても、コンピューターのUSB電力からUSBインターフェースに電力を供給することは、珍しいことではありません。


“残念ながらUSB、あるいはFirewireからバスパワーで供給される電源は高品位なオーディオ機器に供給したいと思うものからはほど遠いのです。一番良くても、100Hzから数GHz帯では酷くノイズだらけであり、最悪の場合は、まあ、言わぬが花でしょう。”


最良の選択は、もちろんUSBバスパワーを使わないことです。もし“デザイン上の制約”でこの選択ができなかったとしても、iFiのiUSB Powerならば、この選択が再び可能になり、乾電池やリチウムイオン充電池の比ではないほど強力な電源が供給できます。21世紀のUSBオーディオを考えるには、 PS Audio社のMains電源製品シリーズを考えてみてください。


−−−− iFiではデジタルオーディオ製品も含めて、多くの製品のアウトプットステージに真空管(OptiValve)を使われていますね。その背景にある理由をお聞かせ下さい。

貴誌が以前にiTubeをレビューされたときに、その重要な答えの一つについて触れていらっしゃいます。

“なぜ真空管なのか?”iFiでは、フランクフルト音楽芸術大学のJürgen Ackermann氏がかつて50名の参加者に対して実施した、真空管と半導体のオーディオシステムによるブラインドリスニングテストの研究を参照しています。

結果、半導体オーディオでは30%のリスナーが試聴後に不快感を感じたと答えたのに対して、真空管の場合は187%が全体的な試聴感が向上したと回答しています。この研究はStereophile誌のMarkus Sauer氏が“神はニュアンスの中にある”という表題で発表した素晴らしい記事を参照して行われました。ぜひ読んでみて下さい。では、なぜ真空管なのか?真空管には音楽鑑賞をより楽しいものにする効果があり、それは聴いてみることで証明されます。



シンプルな話です。真空管は主観的な試聴感を向上させるとともに、真空管を聴くことで私たちはよりストレスを感じることなく、さらにリラックスした状態でエモーショナルに音楽とつながることができるようになるのです。これぞまさに、iFiが追求しているオーディオ体験に他なりません。

−−−− ファイルベースの音楽再生における次の大きな進化として、どのような展望をお持ちですか?

2014年はハイレゾ −−−− それがDXDであれ、DSDであれ、HD-PCMであれ −−−− が、モバイル、ポータブル、ストリーミングで実現されるでしょう。

スマートフォンやタブレット、および関連製品がHDオーディオを本気でサポートし始めます(毎度のように日本がこれを先導していますが)。

ポータブルのヘッドフォンやオーディオ機器は急速に音質が向上してきました。

一方で音楽配信サービスでは欧州が先行しています。配信は20世紀初頭に始まった“物理的メディア”による過去の音楽産業を覆して、着実なビジネスモデルを新たに構築しました。

この“物理メディア”による販売戦略は、1970年代に「自宅録音が音楽を駄目にします」という警告がレコードスリーブに書かれた時も、既に時代遅れになっていました。(おかしなことに、2014年になった今でも音楽産業は無くなっていませんが)

Source: redbubble.com


高速モバイル環境と街中に広がるWi-Fiネットワークは、HDオーディオのシームレスなストリーミング環境を実現し、欧州とアジアでは大きなマーケットシェアを獲得しています。

Source: vizio.com


まだ古い音楽リスニングのスタイルにこだわっている人にとっては、それは夢の国のように思えるでしょう。それ以外の多くの人々にとっては、“クラウド経由の音楽ソースをDXD DACで受けて、ゼンハイザーのハイエンド・ヘッドホンHD 800で聴く”という楽しみ方が一般的になってくるはずです。

誰がなんと考えようと、そういう時代がやってきます。

未来はまさに“今”なんです。HD/高品質のオーディオを聴く環境は、あらゆるフォーマットやパッケージで、 EarbudsからWilson Audioの 「Alexandria」シリーズに至るまで、整いました。今はまさにオーディオ産業にとってエキサイティングな時期だと思います。そこに加わった人々は「神の書いた文字(メネ・メネ・テケル・ウパルシン)」が読める仲間になれるのです(訳注/「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」は、ベルシャザル王の酒宴の席で、壁に現れた手が書いた文字。「数えられ、数えられ、量られ、分かたれた」の意味で、王国滅亡の予言と考えられた)。(続く)

(翻訳:山本敦)
AudioStreamのインタビュー記事より 原文

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