2014年6月16日月曜日

micro iDSD開発(11)スーパー・デューパー仕様1.5(ダイレクト/プリアンプ・アウト)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は6月10日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-super-duper-1-8-the-3-5mm-input-page-54/720#post_10623177

ダイレクト/プリアンプ・アウト

Micro iDSDでは、

Direct(ダイレクト=バイパス)
または
Pre-Amp output(プリアンプ・アウトプット)(アナログ・ボリューム・コントロールを使う)

を選択することができます。



これは理解が簡単で、その良さも簡単にわかります。
しかし私たちは、その背後にあるものに少しばかり光を与えたいと思います。

ALPS製マイクロスイッチ – 日本から直に取り寄せ
iFiのすべての製品には、様々なセッティングと調節のためにマイクロスイッチが使われています。




それらは高品質で頑丈ですが、世界でいちばん使いやすいものとは言えません。私たちは常に状況を改善しようと考えています。このような小さなスイッチでもそうなのです。

Micro iDSDでは、フィルタースイッチ、パワーモード(ちょっと過激なことをやっています)、ダイレクト/プリアンプ、さらにもうひとつの選択タイプなどのために、より使いやすいマイクロスイッチに移行しました。新スイッチは、非常に、非常によくできていて、日本のALPS社から直接取り寄せています。ALPSを選んだ理由はシンプルです。アメリカ、日本、マレーシア、台湾、中国の様々メーカーの30以上のスイッチをテストした結果、ALPSのものがトップになったということです。



これらの新スイッチは、接触部分が銀メッキの銅製で、接触抵抗は0.07オーム以下です。

これらのALPS製のスイッチを使うために、私たちは小さなトグルスイッチ(幅がせいぜい1ミリ程度以下)にキャップを付け加えなければなりません。そうしないと、使えないのです。このキャップのために、私たちはABS樹脂噴射ツールの型を特注しなければなりませんでした。そしてそれから、使いやすさをさらに向上させるために、私たちはキャップひとつひとつをゴムでコーティングしました。



iFiスペックに適合するように作られたボリュームポット(つまみ)
ボリュームポット(ポテンショメーター)はいちばん見逃されることの多いコンポーネントのひとつですが、オーディオの信号経路に関していえば、これが“最弱のリンク”になる可能性があるのです。

多くの設計では、現在入手可能な最新の、もっとも高価なDACが使われていますが、よく観察してみると、その回路には一般的なボリュームポットが備え付けらており、きわめてよくあることですが、デジタル・ボリューム・コントロールになっているものが多いのです。

理論的には、デジタル・ボリューム・コントロールはとてもよくできているように見えるのですが、実際には、ボリューム・コントロールが常に100%機能していなと、音楽ファイルは不完全な形で再生されることになってしまいます。

より良いボリューム・コントロール設計は、評判の高いALPS製のポットを使っています。それでも私たちにとっては、ALPS製のポットは供給量が十分ではありません。そこで私たちは、専用のカスタムポットの製造を依頼しました(iFiシリーズ全体で使うことになります)。

以下は、一般に使われているポットの単純比較表です。



そうなんです。シンプルなセレクタースイッチでも、通常のボリューム・コントロールでも、その背後には複雑な物語が隠されているのです。

2014年6月15日日曜日

あのDSD再生専用アプリHibikiに無償の体験版登場

HibikiFree は DSD 専用音楽プレイヤー Hibiki の無料版です。
 無料版のため、扱えるファイル数は3つまでの制限がありますが、Hibiki のすべての機能が使用できます(DoP 出力による NativeDSD 再生も可能です)。

●HibikiiFreeはこちら




サンプリングレートは、2.8MHz、5.6MHz 及び 11.2MHz(11.2MHz は PCM モードのみ)に対応、拡張子が、”.dsf”、”.dff”及び”.wsd”の DSD ファイルなら再生可能です。
iOSデバイス、カメラアダプター、nano iDSDをお持ちでまだHibikiを体験していない方は是非。

micro iDSD開発(10)テクニカル・ノート:DACチップセット

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は6月8日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-the-meaty-monster-is-power-mad-part-i-and-ii-page-52/690#post_10617050


今日は日曜日。うたたねでもしようと思っているのなら、これを読んでみたらどうかな。

チップセットの厳選:極限まで行くぞ
DACのために理想的なチップセットを選ぶのは、どんなオーディオメーカーにとっても簡単な仕事ではありません。

私たちは2つの選択に直面しました。

選択1:よく知られたチップセットを選ぶ。音の点で非常に良く、より新しく、客を強く意識している。

選択2:きわめて満足度の高い音と思われるチップセットを選ぶが、あまり知られていないのでリスクがある(おそらくより高価で、現行製品である可能性が高い)。

iFiとしては、AMR時代以来、「選択2」を選んできましたし、今後もそれを続けるでしょう。これは多少保守的な習慣に逆行することになり、危険度も増すのですが、結果としての音を聴けば、その価値があると心から信じています。

2000年にフラッグシップのCD-77(価格はUS$11400)の開発を始めた時に、私たちは伝説的なフィリップスのTDA1541AというDACチップセットから、通常よりさらに30%以上のソニックパフォーマンスを引き出そうとして、数段階の措置を講じました。私たちは正式には記録されていない特徴を市場に持ち込み、それは当時も現在も最高のソニックパフォーマンスとなっているのです。

下の図を見れば、私たちがやったことが多少おわかりいただけるでしょう。

1. Audiophile Level  オーディオファイルレベル

2. Datasheet Implementation Level データシート実施レベル

3. Advanced Level 高度なレベル

4. AMR/iFi Level    AMR/iFiのレベル


TDA1541Aは世界中で用いられており、私たちの意見では、十分な理由でそれは正当化できます。このチップセットを使っているのは、私たちだけではありませんでしたが、私たちはこのチップセットから最大限のものを引き出すために、シリコンの型のレベルまで調査しました。CD-77はこの驚異的なチップセットを搭載しているのみならず、わずかながら“X要因”が組み込まれているのだと、お客様に保証できます。それは、スーパーカーを入手して、ECU(エンジンコントロールユニット)をリマッピングして、ドライブトレーンを上げるようなものなのです。

同様に、これから発売されるmicro iDSD用に私たちが選んだDACは、定評あるDSDチップであるDSD1700の直系のものなのです(PCM界で、とりわけ日本で、フィリップスTDA1541Aが伝説的だったのと同じです)。

私たちがmicro iDSDのために(そしてまたnanoシリーズ及び他のシリーズのiDSDのために)選んだプラットフォームは、バーブラウン製のものでした。なぜか? それは、DSDとPCMを、内部変換を行うことなく扱うことのできる、数少ないチップセットのひとつだからです。これによって、すべては変更されることなく保たれ、音楽ファイルがDSDであろうとPCMであろうと、全体はオリジナルに近い状態のままであることができるのです。

micro iDSDでは、これを実現するために多大な努力をしています。DSDとPCMの両方を扱うことのできる、すぐにも入手可能なDACチップを見つけるのは、なかなかのチャンレンジでした。メーカーは、チップセットの中で何が行われているかについては、一般に言いたがらないものです。ですから、実際に内部がどうなっているのかを知るには、詳細にテストしなければならないことが多いのです。

私たちがnano iDSDで用いているDACチップは、通常とはかなり違う処理をしています。PCMオーディオの上部の6ビットには6ビット・マルチビットDACを用い、バーブラウンのマルチビットDACの有名な特徴である暖かさとピシッと引き締まった音を聴かせてくれます。これより下のビットは、256スピードのデルタシグマ・モジュレーター(事実上DSD256)で変換し、PCMの再生に、デルタシグマのDACとDSDの有名な特徴であるなめらかさを与えています。

バーブラウンのトゥルー・ネイティブDSD/PCMチップセット – PCMとDSDをネイティブで扱う


DSDを再生する時にも、同じデルタシグマのモジュレーターが使用され、DSDビットストリームをダイレクトにアナログに変換します。もちろん、DSDにはデジタルフィルターもデジタルボリュームコントロールも使えないので、これらの機能はもともとあるアナログ領域に追加しなければなりません。

結論
ですから、DSDで制作されたレコーディングがあれば、micro iDSDではそれをネイティブで聴くことができるのです。

ですから、PCMで制作されたレコーディングがあれば、micro iDSDではそれをネイティブで聴くことができるのです。

「パート4:DSDとPCMの詳細」に続く

2014年6月14日土曜日

micro iDSD開発(9)スーパー・デューパー仕様1.4 (フェムトクロック)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は6月5日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-the-meaty-monster-is-power-mad-page-52/645#post_10606215

フェムトクロック – 
フェーズノイズにうるさくこだわるクロック

背景
フェムトクロックは、どれも良くできています。実際とてもよくできているのです。これらのクロックは水晶クロックよりも低いジッターレベルを示します。それがより良い音を生み出すのです。その精確さを示すためによく引用されるベンチマークが、フェムト秒(Fs)(100万分の○○秒)です。

2008年、まだ「フェムトクロック」という言葉が広く使われるようになる前に、AMRは“グローバル・マスター・タイミング”(GMT)と“ジッターレス”テクノロジーの一環として、DP-777用に特別なクロックを開発しました(なぜ“特別か?”というと、それは以下を見ていただければわかります。フェムトクロックと一口に言っても、すべてが同じではないのです)。

私たちはこれをGMTクロック・プラットフォームと呼びました(このプラットフォームは、特別に開発されたハードウェアとソフトウェアで構成されています)。“缶入りのクロック”を買ったらそれで仕事はおしまい、というわけではないからです。

ディスクリート、ルビジウム、スーパークロック、そしてとりわけいくつかのフェムトクロックなど、あらゆる種類のクロックを長年にわたって使ってみた結果、私たちはそれらがすっかりよくわかるようになりました。

すべてのフェムトクロックは、優れた低フェーズノイズ(クロック内部で観測されるジッター)を示します。しかしながら、その起源はSONET(http://en.wikipedia.org/wiki/Synchronous_optical_networking)の一部にあったので、広く知られるSONETを対象にした“フェムトクロック“は、それほど望ましいものではないのです。というのも、そのフェーズノイズのベストパフォーマンスは、12kHz以上の帯域に集約されているからです(つまり、可聴帯域の最上部とそれを超えた部分なので、オーディオにはあまり恩恵がないということです。

 一例として、このリンクを見てください。遠距離通信分野でのフェムトクロック・テクノロジー(遠距離通信用のスペックになっています)の実際の使用に光を当てています。

http://www.thinksmallcell.com/System/clock-frequency-accuracy-within-femtocells-for-timing-and-location.html


広く使われているフェムト(SONET)クロック


これは光通信システム(別名SONET – これはサブセットです)です。-70dBの帯域を目立たせるために青い線を加えています。次のセクションのmicro iDSDのAP2チャートを参照すると、“同種のもの”の比較であることが一層わかります。

50kHzの箇所のスパイク状の突出部分は、“信号”です。見ればわかるように、この周辺の何キロヘルツにもわたって、フェーズノイズが低いのがわかります。このアプリケーション(SONET)では、これが重要なのです。

しかしながら、人間の可聴帯域である20Hz〜20kHzにとってもっとも重要なのは、緑色の矢印の部分です。そこでは、フェーズノイズのパフォーマンスが、-100dB〜-70dBの間では、それほど際だってはいません。

説明
したがって、AMRにとっての鍵は、新システムの“GMT”クロック・プラットフォームを設計することだったのです。それは、重要な可聴帯域において最低のフェーズノイズを示すのみならず、文字通り何100万もの周波数(それについては、DP-777の技術資料に書いてあります)に調節できる精確さをも、もたらしてくれるのです。

micro iDSDに組み込まれるように設計された GMTクロックシステムは、280フェムト秒以下の数値であり、多くのフェムトクロック(ジッターを低減するように設計されているのですから)に比肩できます。

以下のmicro iDSDのAP2グラフを見ると、9kHzから15kHz間のジッターが非常に良好であることがわかります。 micro iDSDのノイズフロアは、ずっと-150dBまで下がっています。これは実質的には突出することなく、一律です。

AMR/iFi GMT Clock Platform

ユーザーにとってどういう恩恵があるのか
全体に一貫した、一律の、無視できるレベルのジッターは、優れたタイミング(計時)を意味します。適正な量のアタックと減衰、そしてもちろん精確な音を実現してくれるということです。もっとも重要な可聴帯域においてmicro iDSDのジッターがきわめて低いという結果を、私たちは心から喜んでいます。実のところ、もっとかなり高額なDACと比べてみていただいても、私たちは気になりません。

これはなかなか興味深いことではないでしょうか。micro iDSD(実際、私たちはこれをDP-777から取ってきたのですから)において、私たちがパーツのパフォーマンスに注いできた特別な注意、そしてカスタムデザインに、多少の光があたることになるのですから。

付録:ルビジウムクロックはどうなのか?
下に示したのは、いくつかのタイプのルビジウムクロックのチャートです。それらすべてが示しているのは、フェーズノイズの数多くの鋭いスパイク(突出)です。たとえ測定値は良くても(中には-150dBというのもあります)、突出すると、ノイズレベルが-70dB〜-90dBまで跳ね上がります。
これは理想からはほど遠い状態です。私たちが、iFi製品でもAMR製品でもこれらのクロックを使っていないのは、それが理由です。結局突き詰めれば、使用される特定のクロックと、可聴帯域でのそのパフォーマンスに、細かな注意を払うしかないのです。




iFIオーディオ主任エンジニア、トルステン博士かく語りき(3)連載インタビュー

“私たちが、何が聴こえていて、何が聴こえていないのかを断言できるようになるまでには、まだまだ多くの研究が必要です。”

電気信号を厳密に見ていくと、サンプリングレートを高くし、ビット数を増やすことによって、録音された電気信号をオリジナルの音響により近く似せることができるということが、簡単にわかります。適切なエレクトロニクスとスピーカー、またはヘッドフォンと組み合わせれば、高いサンプリングレートとビット数によって、オリジナルの音響に存在していた音場に、より近い音場を創り出すことができると、主張することができます。

人間の聴覚システムの、実際に動作する、信頼できるモデルを獲得する(つまりアンプ、スピーカー、ヘッドフォンなどが必要なくなり、単に神経システムへ直に接続できるようになる)までは、経験ある投資家は原音に最大限近づけるやり方、つまり、サンプリングレートとビット数を改善するという方法に乗っかるのです。しかもこの方法は、今ではそれほどむずかしいことではないので、なおさらそうするのです。

−−−− AMRの「デジタルプロセッサー777」は、音源に起因する“ジッターを実質的に除去する”“ゼロジッターモード”を搭載しています。そもそも、ジッターとはどういうものであり、なぜ除去する必要があるのか、お話しいただけますか?

ジッターに関しては、すでに十分に説明されていますが、恐らくその概念にはいまだ謎めいている部分があります。

DSDのことはひとまず置いておくとして、デジタルオーディオは、一定の正確さで絶対的な値として信号を記録します。この値をアナログ信号として復元することができる限りは、私たちはデジタルシステムの正確さの範囲内で、許される限りオリジナルの信号をこれと一致させようとするでしょう。

ただしこれは、それぞれのサンプルが完璧な周期を備えたAD変換において得られ、そしてまたそれが同様に完璧な周期で再生された場合のみに限られます。

仮にタイミング(計時)に変動があった場合、つまり、AD変換またはDA変換のどちらかが起こる“時に”変動があった場合は、結果に歪みが生じてしまいます。典型的な図をここに示します。


A)ジッターのないクロックで正しく再構築されたアナログ信号   B)ジッターのあるクロックで再構築されたアナログ信号

こういった種類の歪みを最小化する必要があることは明らかですが、最小限に止めるための方法と、タイミングの変動の起源に関する知識はまだ多くはありません。

DP-777では、ジッターを極小化するまったく新しいクロックシステムを開発・搭載しました。それは、入力されるクロックをきわめて長時間にわたって平均化し、それだけを探知するクロックなのです。クロックをコントロールするためのPLLや、あるいはそれに相当するコントロールループを使わず、代わりに制御はノンリニアのファジー論理を基盤にしています。これにより、制御システムがメモリバッファの正確な動作を確保するためにクロック周波数を変える必要があると判断しない限り、クロックをしっかり固定する仕組みになっているのです。

“ついでに言っておきますが、フェムトクロックのジッター及びフェーズノイズはきわめて低いのです。しかし、実際に数フェムト秒のジッターが示されるのは12kHzを超えたあたりであり、これはつまり、可聴帯域の上限に向かうあたりでやっとジッターが観測できるということです。”

私たちが“グローバルマスタータイミング(GMT)”と呼んでいるこのクロックは、今はやりの、いわゆる“フェムトクロック”と同程度のジッター及びフェーズノイズを持っています。ついでに言っておきますが、フェムトクロックのジッター及びフェーズノイズはきわめて低いのです(訳注/フェムトは10の-15乗)。しかし、実際に数フェムト秒のジッターが示されるのは12kHzを超えたあたりであり、これはつまり、可聴帯域の上限に向かうあたりでやっとジッターが観測できるということです。これは、“フェムトクロック”が、10kHzを超えたあたりからノイズが一層低くなるのが理由です。そしてこのことは、それを意図したアプリケーション(ハイエンドオーディオではなく、インターネットのバックボーンとなっているSONET〔Synchronous Optical Network〕がそれです)にとっては、重要になります。

GMT(グローバルマスタータイミング)は、基板全体にわたって非常に低いジッターレベルであるため、影響を気にする必要がありません。私たちはこれをシンプルに“ゼロジッター”と呼んでいます。新しいクロックは概ね10分間前後で0.004ppm以下の変化となります。音源からのどんなクロック変動も、メモリーバッファに吸い上げられてしまいます。このバッファは、ビデオ再生時にリップシンクの問題を引き起こすことがないほどの短さであるとともに、どんな形体のジッターも吸収するほどの長さを持っているのです。

AMR’s Zero Jitter circuit = Immaculate Signal


−−−− AMRはデジタルプロセッサー「DP-777」の中で、基本的にCD品質のデータをより高いビット/サンプリングレートで処理するのではなく異なるチップセットで処理する“Gemini Digital Engine(GDE)”を採用しています。それぞれのビット/サンプリングレートに合わせて別々のチップセットを使う利点とは何でしょうか?

PCM、ビットストリーム、“ネイティブ再生”については先述した通りですので、古典的なマルチビットDACをCD再生に使う理由は明らかでしょう。他にどんな方法を使ったとしても、CD信号のために得られるものは何もないのです。

古典的な“ダイナミック・エレメント・マッチング”のフィリップスのCD-DACのような種類の音を提供してくれるチップの数は、非常に不足しています。すべてが10年ほど前に製造打ち切りになりましたが、そのすべてがフィリップスによって製造されていたのです。しかも、そのどれもが、16ビット以上では動作せず、他に似たようなサウンドのものはありませんでした。ですから私たちはこれ(フィリップスのCD-DAC)をCDの標準的な信号用に使っているのです。

しかし、より高い解像度やサンプリングレートをネイティブの解像度で扱う能力がないと、現代の信号には問題が生じるかもしれません。それゆえ私たちは、多大な時間をかけて、DP-777を将来も長い期間にわたって使うことができるように、“HD(高密度)信号”を扱うための優れた音質を提供してくれる現代のDACを探しました。そしてそうしながらもその一方で、CDやCDからリッピングしたファイルを再生する際に、古典的なフィリップスのDAC+真空管のCDサウンド(私たちのCDプレーヤーは当然ながらこれで有名であり、またこれで数多くの称賛と賞を獲得しました)を提供できるようにしたのです。

多くの点で、これはiFiのiDSDシリーズがDSDに適用される場合と同じ原理です。それぞれの種類の信号を、それぞれに最適な解決法で再生するのです。



−−−− iFiはUSB-DAC用のiUSB Powerも手がけています。USB DACへの電源供給の重要性についてお話いただけますか?

原理的に、USBとは単なるデータの通り道に過ぎません。ですからすべてのDACは、優れた電源供給をすれば、その恩恵を受けるのです。

USB接続とFirewire(現在はThunderbolt)接続は、どちらも電力を伝送し、また外部電源と電源ケーブルは現代のセッティングでは不便なので(そして間違いなくお金もかかります)、低予算のDACを作る際には、USBやFirewire(Thunderbolt)による電源供給を使うことは、自然な選択になります。それは、おそらくは高価なハイエンド装置ではあまり言い訳ができないのかもしれませんが、それでも、ハイエンド装置においても、コンピューターのUSB電力からUSBインターフェースに電力を供給することは、珍しいことではありません。


“残念ながらUSB、あるいはFirewireからバスパワーで供給される電源は高品位なオーディオ機器に供給したいと思うものからはほど遠いのです。一番良くても、100Hzから数GHz帯では酷くノイズだらけであり、最悪の場合は、まあ、言わぬが花でしょう。”


最良の選択は、もちろんUSBバスパワーを使わないことです。もし“デザイン上の制約”でこの選択ができなかったとしても、iFiのiUSB Powerならば、この選択が再び可能になり、乾電池やリチウムイオン充電池の比ではないほど強力な電源が供給できます。21世紀のUSBオーディオを考えるには、 PS Audio社のMains電源製品シリーズを考えてみてください。


−−−− iFiではデジタルオーディオ製品も含めて、多くの製品のアウトプットステージに真空管(OptiValve)を使われていますね。その背景にある理由をお聞かせ下さい。

貴誌が以前にiTubeをレビューされたときに、その重要な答えの一つについて触れていらっしゃいます。

“なぜ真空管なのか?”iFiでは、フランクフルト音楽芸術大学のJürgen Ackermann氏がかつて50名の参加者に対して実施した、真空管と半導体のオーディオシステムによるブラインドリスニングテストの研究を参照しています。

結果、半導体オーディオでは30%のリスナーが試聴後に不快感を感じたと答えたのに対して、真空管の場合は187%が全体的な試聴感が向上したと回答しています。この研究はStereophile誌のMarkus Sauer氏が“神はニュアンスの中にある”という表題で発表した素晴らしい記事を参照して行われました。ぜひ読んでみて下さい。では、なぜ真空管なのか?真空管には音楽鑑賞をより楽しいものにする効果があり、それは聴いてみることで証明されます。



シンプルな話です。真空管は主観的な試聴感を向上させるとともに、真空管を聴くことで私たちはよりストレスを感じることなく、さらにリラックスした状態でエモーショナルに音楽とつながることができるようになるのです。これぞまさに、iFiが追求しているオーディオ体験に他なりません。

−−−− ファイルベースの音楽再生における次の大きな進化として、どのような展望をお持ちですか?

2014年はハイレゾ −−−− それがDXDであれ、DSDであれ、HD-PCMであれ −−−− が、モバイル、ポータブル、ストリーミングで実現されるでしょう。

スマートフォンやタブレット、および関連製品がHDオーディオを本気でサポートし始めます(毎度のように日本がこれを先導していますが)。

ポータブルのヘッドフォンやオーディオ機器は急速に音質が向上してきました。

一方で音楽配信サービスでは欧州が先行しています。配信は20世紀初頭に始まった“物理的メディア”による過去の音楽産業を覆して、着実なビジネスモデルを新たに構築しました。

この“物理メディア”による販売戦略は、1970年代に「自宅録音が音楽を駄目にします」という警告がレコードスリーブに書かれた時も、既に時代遅れになっていました。(おかしなことに、2014年になった今でも音楽産業は無くなっていませんが)

Source: redbubble.com


高速モバイル環境と街中に広がるWi-Fiネットワークは、HDオーディオのシームレスなストリーミング環境を実現し、欧州とアジアでは大きなマーケットシェアを獲得しています。

Source: vizio.com


まだ古い音楽リスニングのスタイルにこだわっている人にとっては、それは夢の国のように思えるでしょう。それ以外の多くの人々にとっては、“クラウド経由の音楽ソースをDXD DACで受けて、ゼンハイザーのハイエンド・ヘッドホンHD 800で聴く”という楽しみ方が一般的になってくるはずです。

誰がなんと考えようと、そういう時代がやってきます。

未来はまさに“今”なんです。HD/高品質のオーディオを聴く環境は、あらゆるフォーマットやパッケージで、 EarbudsからWilson Audioの 「Alexandria」シリーズに至るまで、整いました。今はまさにオーディオ産業にとってエキサイティングな時期だと思います。そこに加わった人々は「神の書いた文字(メネ・メネ・テケル・ウパルシン)」が読める仲間になれるのです(訳注/「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」は、ベルシャザル王の酒宴の席で、壁に現れた手が書いた文字。「数えられ、数えられ、量られ、分かたれた」の意味で、王国滅亡の予言と考えられた)。(続く)

(翻訳:山本敦)
AudioStreamのインタビュー記事より 原文

2014年6月10日火曜日

micro iDSD開発(8)スーパー・デューパー仕様1.3 (SPDIFポート)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。


以下は6月3日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-technical-notes-3-going-to-the-nth-degree-page-47/630#post_10602951


インテリジェントなSPDIFポート


micro iDSDに搭載された同軸ポートは以下を可能にします。

以下によるSPDIF伝送:
- 同軸入力/出力
- オプティカル入力(付属のアダプターを使用)

背景
今日、ケーブルテレビセットボックス(受像器)、ネットワークストリーマー、TVセットボックス(受像器)、DVD/Blu-rayプレーヤーなどは、すべて(同軸及びオプティカルの)SPDIF接続が可能になっています。

時には、USBからSPDIFへの変換(デジタル出力のため)やSPDIF入力(アナログ出力のため)が必要になることがあります。

説明
通常は、micro iDSDはオプティカルまたは同軸によるSPDIF入力を想定していますが、USB PCM(192KHZまで)がUSBポートから伝送される時は、自動的に同軸を切り替えて、SPDIF信号を出力するようになっています。

USBストリームがなければ、自動的にSPDIFに切り替わります(まず最初に同軸信号を探し、それがなければオプティカル信号を探し、さらにそれがなければ省電力モードに入ります)。

このSPDIFポートは“双方向“仕様であり、受ける側はグローバル・マスター・タイミング/ゼロ・ジッター(Global Master Timing/Zero Jitter)を使用し、またリクロッキング/ドライヴァー(re-clocking/driver)を使用しています。これはiLINKのレヴェルでは動作しませんが、かなりフレキシブルで、十分以上に高品質SPDIF機能を果たす能力を持っています。

何が有利なのか
実際上は、外部のSPDIFソースからの入力用にSPDIFコネクターを接続することがあるでしょう(この場合、iDSDに電力を供給するのに、USB接続は必要ありません。5ヴォルトのチャージャーがその役目を果たします)。ソースは、ストリーマー、DVDプレーヤー、あるいはそれに類するコンポーネントになるでしょう。
USBとSPDIFを同時に接続することさえできます。USB再生がSPDIF再生に優先するからです。

SPDIF入力が一時的に出力用になる時に、iDSDやSPDIFソースにダメージを与えるリスクはありません。
SPDIF出力を他の(PCM)DACをドライヴするために使うこともできます。この場合は、USBストリームがない時にはSPDIF信号がなくなり、iDSDは1分程度でスリープモードに入ります。

様々な選択ができる、すばらしいフレキシビリティーです。気に入って、もちろん楽しんでいただけると思います。

これは、このクラウドデザイン・スレッドにおける断然人気の高かった希望でした。SPDIF出力の人気が高いのは知っていましたが、実際にこれほどの重要性を置くことはなかったのです。

2014年6月5日木曜日

iFIオーディオ主任エンジニア、トルステン博士かく語りき(2)連載インタビュー

前回からの続き)−−−−AMRとiFiでは、それぞれに価格レンジが全く対極にある製品がラインナップしています。開発設計の責任者として両方のブランドで苦労されてきた点や、チャレンジしてきたことを教えて下さい。

AMR、iFiともども、設計のあらゆる局面で一緒に携わっている強力な開発チームがいます。私の役割は重要ではありますが、私はそのチームワークの中で、最終設計を担当する数人のうちの一人に過ぎません。

チャレンジは相違していると同時に似通ってもいます。最も重要なことは、それぞれの製品に対して可能な限り最高のサウンドクオリティーを実現することです。このことはiFiでもAMRでも同じことです。唯一異なっているのは、製品をつくる際の制約の部分です。

スーパーハイエンドのAMRでは、技術的な面や、パーツ選定において広く設計の自由があり、コストや時間の問題をほとんど度外視しながら、もはや製造されていないまったくのデッドストックのパーツを使うことにこだわっても大丈夫です。例えば10〜20年ものの新品のデッドストック(いわゆる「新古品」)DACチップや、50年ものの新品のデッドストック真空管であっても、取り入れることができます。回路の細かな側面を完成するのに1年かかる? いや、2年かけてもいい。実際にそれだけかかるのなら、そうするしかないのです。

一方iFiでは、私達は時間とコストの制限と戦わなければなりません。利用可能な技術を使い、ひとつの設計を仕上げるのに数年をかけるということはありません。新製品を、もっとずっと迅速に発売できることが必要なのです。

“多くのメーカーにとってアプリケーションノート(テクニカルシート)は絶対基準であると思いますが、私たちにとっては、単に最低限のパフォーマンス基準であり、設計のスタート地点に過ぎません”

それでも、どちらのブランドでも、私たちは通常とは違う解決法を用いることができ、また実際にそうしています。アプリケーションノートに従って、“クッキーの型抜き”のような型どおりのやり方に自らを限定するようなことはしません。多くのメーカーにとってアプリケーションノートは絶対基準であると思いますが、私たちにとっては単に最低限のパフォーマンス基準であり、実際の設計のスタート地点に過ぎません。超ハイエンドの製品を設計して実際に発表するということを通じて、私たちはiFi製品に使われることになるものを選定し、発表するにあたっての、確かで安定した手段を得ているのです。

最終的に、iFiの製品はまさにAMRと同じ“ハイエンド”のDNAを持ち、AMRの“ハイエンド”製品と同様に細心の注意を払って組み立てられます。iFiの場合、超ハイエンド製品に必要とされる最終のリファインの工程を一部簡略化することでコストを下げていますが、基本的なパフォーマンスは等しく私たちのベストを尽くしています。

左からAMR CD-77 (製造中止でストックのみとなったTDA-1541A DACチップセット、及びMullard製真空管を使用) 、 iFi nano iDSD とnano iCAN
−−−−iFiのラインナップには“PCM/DSD/DXDなど、全てのハイレゾフォーマットのネイティブ再生に対応する”「nano iDSD」があります。一般のDSD再生の周辺環境と実際の“DSDネイティブ再生”には多少の混同がありますが、“ネイティブ”とはどういう意味なのかを、この背景の中で説明していただけますか?

PCMとDSDは根本的に異なるフォーマットです。このことは、PCMとDSDのデジタル波形の手を加えていないデジタル出力を観察すれば、明らかになります(Delta Sigma、Bitstream、DSDは、実は基本的には同じ処理に対する異なった商標名)。

PCM vs. DSD – Wikipedia.org

それぞれのフォーマットは、それぞれ異なる長所と短所を持っています。詳しい背景と歴史については、もう一つの論文を参照してください(追加資料後日掲載)。キーとなる論点を要約すると、あるフォーマットを他のフォーマットへ変換する際にはいつも、私たちが完全な世界にでもいない限り、データロスのない完全なフォーマット変換は絶対に不可能であるということです。さらに悪いことに、変換の過程行程で私達は(1)フォーマットが起こす例外は何であれ取り除き、 同時に(ii)もう一方のフォーマットの限界をそれに押しつける傾向にあります。

24bit /352.8kHz (DXD-PCM)のフォーマットから1-bit/2.822MHz (DSD)に変換する場合、DSDシステムがカバーできるのはわずか12.5%の タイムドメイン情報であるのにもかかわらず、私たちはPCMフォーマットがカバーできる約99.6%の振幅情報を捨てなければなりません。DXDからDSDへ変換した場合には、1-bit/ 2.822MHzから24bit/352.8kHzになります。理論的には全てを振幅情報にリマップできるとしても、DSDのタイムドメインの87.5%を捨てることになります。つまり事実上は、両フォーマットからベストというよりも、むしろ最悪のものを取り出してしまう結果になるのです。

Analogue Devices (AD)、旭化成マイクロデバイス(AK)、Cirrus Logic(CS)、ESS(ES)、Texas Instruments(PCM)、そしてWolfson Micro(WM)といった、近年のADC/DACパーツは、一般的にPCMを主体とした市場を対象に開発されています。言い換えると、産業的にはレコーディング/編集/マスタリング/リリースの全てがPCMフォーマットで行われているため、ADコンバーターは一般的にPCMを出力し、DAコンバーターはPCM入力で受けることを想定しており、これらはこのオペレーションに最適化される傾向があります。にもかかわらず、それぞれのDACの中では、基礎をなす変換メカニズムとして、Delta Sigma (言い換えれば1-bit) の一種が使用されているのです。

現在製産されているDACは、一般的にワンチップに統合された、デジタルフィルタリングとデジタルボリュームコントロールによる完全なPCMオーディオパスを搭載しています。デジタルフィルターとデジタルドメインボリュームコントロールはPCMフォーマットでしか動作しません。DSD再生については、ほんのオマケとして 、マーケティング的なニーズから“流行に合わせる”ために付け足されていることが多くあります。DSDをまず最初にPCMへ変換しないDACは、どれもDSD専用のデジタルボリュームコントロールやデジタルフィルターを搭載することはできません。

“DSDをまず最初にPCMへ変換しないDACは、どれもDSD専用のデジタルボリュームコントロールやデジタルフィルターを搭載することはできません”

これらの特徴を踏まえた上で、DSDはまずPCMへ変換され、デジタルフィルター処理が行われ(この段階ではPCMからDSDのデータストリームに変換されるすべての問題が、そしてまたデジタルフィルターの全ての問題が加わってしまうのですが)、ようやくマルチビット Delta Sigmaの信号に変換されます。つまりDACチップと呼ばれるブラックボックスの心臓部分で、望ましくない変換を二重にすることになるのです。

DSDではなく、PCMに的を絞った昨今のDACチップセット。Analogue Devices(AD)、旭化成マイクロデバイス(AK)、 Cirrus Logic(CS)、 ESS(ES)、 Texas Instruments(PCM)、Wolfson Micro(WM)の出しているようなADC/DAC

DSDをまずPCMに変換してからPCM信号として処理し、マルチビットDelta Sigma(Multi Bit Sigmaは未だに1-bitのテクノロジーで、多くのものは並行して走らせているだけです。これは本物のマルチビットDACを走らせるのとは大きな違いがあります)に戻して再生しています。これはつまり、DSDを直ちにPCMに変換してPCM信号として出力しているということで、多くの「DSD対応DAC」と呼ばれる製品で採用されています。Wolfson Microのチップの中に、オプションとしてDSDからPCMへの変換、デジタルフィルター、デジタルボリュームをバイパスして、DSDを直接変換するものもありますが、この場合はDSD信号に最適化しながら、50kHz対応のローパスフィルターを搭載するアナログ回路が必要になります。私は今日に至るまで、このWolfson Microのチップを“ダイレクトDSD”モードで使っているDSD DACを目にしたことはありません。

“ですから通常は、現代のコンバーターでPCM音源とDSD音源を聴いて音の違いがあったとしても、厳密に言えば、それでそれぞれのフォーマットの相対的な長所について何かがわかるわけではなく、変換のアルゴリズムばかりがわかるだけなのです。”

ですから通常は、現代のコンバーターでPCM音源とDSD音源を聴いて音の違いがあったとしても、厳密に言えば、それでそれぞれのフォーマットの相対的な長所について何かがわかるわけではなく、変換のアルゴリズムばかりがわかるだけなのです。

理想なのは、PCMを、真のマルチビットDAC(オリジナルのADC音源が何であるかは問題ありません – 変換処理とそれによるロスの段階を常に一段省くことになるからです)を用いて、PCMとして再生することです。そして私たちは、DSDを、デジタルドメインでは一切変換処理することなく(オリジナルのADC音源が何であるかは問題ありません – 変換処理とそれによるロスの段階を常に一段省くことになるからです)、純粋なDelta Sigmaとして再生します。これが、私たちが“ネイティブ”再生と呼んでいるものなのです。DSDはDSDのままで、直接アナログに変換されます。PCMはPCMのままで、直接アナログに変換されるのです。

iFi Audioのnano iDSD (そして近々発売予定の全てのiDSDレンジ)では、これを提供するためならなんでもやろうと思っています。DSDとPCMの両方を適切に扱えるDACチップをすぐにも見つけることは大変な難題でした。メーカーは一般的にチップの内部に関する情報を公開したがらないので、本当はどんな処理が行われているのか知るためには、実際のパーツを手に入れてから独自に入念なテストをしなければならないのです。

nano iDSDで使っているDACチップでは少し変わった処理を行っています。PCMオーディオの上位 6bitの信号に対して、6bitトゥルーマルチビットDACを用いることで、Burr Brown のマルチビットDACの有名な特質である、暖かいと同時に定位のピシッと定まったサウンドを実現しているのです。これより下位のビット情報は全て、等級の低い256スピードのDelta Sigma変調器により(事実上のDSD256)変換され、PCM再生に、Delta Sigma DACとDSDの有名な特質である滑らかなサウンドを提供します。

Burr-Brownの真にネイティブなDSD/PCMチップセット – PCMとDSDをネイティブに処理

DSDの再生時には、同じDelta Sigma変調器が、直接DSDのビットストリームからアナログ信号に変換する形で使用されます。もちろん、DSDに使うことができるデジタルフィルターやデジタルボリュームコントロールは存在しないので、これらの機能は元々あるべきアナログドメインに追加しなければなりません。

−−−−DoP再生のベネフィットは あると思いますか?

この問いの答えについては、よく議論されるように再生の側だけでなく、そもそもの録音から再生までの流れ全体で考える必要があります。

私は、DSD(そして残念なことにネイティブPCMも)は、LPやCDのように歴史的なフォーマットと見なしています…。ネイティブPCMでの録音・再生、またはネイティブDSDの録音・再生のどちらかが、それぞれのフォーマットでの最高品質を提供するでしょう。しかし現実の世界で、これは稀なケースです。

現代ではまだネイティブDSD対応のADC・DACはとても珍しく、ネイティブPCM対応のそれはさらに稀なので、特にハイブリッドタイプのADCやDACにおいては比較自体が無意味です。

リンゴとオレンジそのものの魅力を比較することは無意味ですが、例えばリンゴとオレンジをフリーズドライして、ジュースの粉にして 水や砂糖と混ぜるといった加工の手順を経てできたものの味や出来映えについては比較ができます。新鮮な絞り立てのオレンジジュースと濃縮還元のオレンジジュースについては、これはもう比べるまでもありません。

確かなことは、ネイティブDSDは、DSDからPCMやハイブリッドPCMに変換した信号よりもメリットが大きいということです。そしてネイティブPCMには、DSDに変換されたPCM信号よりもメリットがあります。

−−−−さらに高いサンプリングレートのPCMデータも話題になりつつあります。192kHz/24bitはより低いサンプリングレートの音源よりもクオリティが低いと主張する人がいます。Monty Montgomery氏もその一人ですhttp://xiph.org/~xiphmont/demo/neil-young.html。192kHzやDXDを含む、ハイサンプリングレートのハイレゾが登場してきたことについてはどう感じていますか。

そうですね、Montgomery氏が主張している、人間の聴覚には限界があるという持論には一理があります。ただ、彼は人間が実際に聴き、認識できるものの限界については、それほど正確に解明していないと思います。

人間の聴覚メカニズムは驚異的です。それは全体がデジタル方式の“トランスデューサー”(有毛細胞)と、高機能なノンリニア・アコースティックシステム(外耳道、隔膜、繋がった骨や腱等々)の組み合わせにより構成されています。正のフィードバック(正帰還)を使って、小さな音を増幅することさえやってのけます。そしてこのフィードバックが本来の軌道を外れると、耳鳴りの原因のひとつになるのです。時には、耳鳴りのような音が聞こえている人の隣に立っている人がその音を聴くことができるような微少な音圧レベルでも、耳は振動することがあるほどです! こうして、獲得されたデジタル信号は、学習によって相当な種類のサウンドに反応することができるアナログコンピューターに相当するもの(つまり脳)を使って処理されるのです。

人間の聴覚器官


もしも人間の聴覚が(電気による)機械的なサウンド録音・解析システムの総体だとしたら、設計がめちゃくちゃで全然役に立たないものに思われるはずです。しかしながら一方で、それは同時に例外的なアコースティック解析の能力といえる「聴覚」を我々にもたらしました(それを私たちはとりあえず「聴覚」と呼んでいるのです)。実際私たちは、脳内の神経システムに“つなぐ”ことのできる、実用的な人工聴器官の製造にはまだ辿り着いていないのですから。機械でそれを再現できるほどまでには、人間の聴覚システムをまだ十分には理解していないのです。

実のところ、人間の(そしてある程度は動物の)聴覚は、“インテリジェントデザイン”(訳注/宇宙や生命体は高度に知的な存在によって創造されたものであるとし、進化論を認めない主張)の賛否の議論にも役立ちそうです。通常自然は与えられた問題に対して、最もシンプルに実現可能性を描ける解決方法にめがけて進化します。極端に精巧なシステムができることは稀です。従って極端に複雑で、反単純化されている人間の聴覚は、“インテリジェントデザイナー”によってのみ作られることが可能であるというのです。同様に、まったく気の狂った人なら、人間の聴覚にアコースティックな感覚を与えているこのルーブ・ゴールドバーグ・マシン(訳注/アメリカの漫画家ルーベン・L・ゴールドバーグの漫画が起源。簡単にできそうなことをするのに、わざわざ手の込んだ仕組みや機械を作ること)のような珍奇な仕組みを、作るかもしれません。ですからそれは、進化の目に見えない力だったに違いないのです。

形而上学的なことはさて置き、私たちは、オオハシ氏を始めとする人々の研究を通じて、たとえば音楽を聴く時には音を超越した何かも知覚しているのだという証拠を得ています。Lee/ Geddes氏、 J.J. Johnston氏、他の多くの人々が、私たちは何をどのように聴いているのかという知識の境界を押し広げ続けています。多くの先端研究の成果が伝えることは、 私たちはあらゆる領域における人間の聴覚認知を過大にも過小にも評価してきたがゆえに、一般的に伝えられている音の周波数や大きさおける認識限界の数値は必ずしも正しいものではないと考えられるということです。私たちが、何が聞こえていて、何が聞こえないのかを断言できるようになるまでには、まだ多くの研究が必要です。(続く)

(翻訳:山本敦)
AudioStreamのインタビュー記事より 原文