2014年6月4日水曜日

micro iDSD開発(6)スーパー・デューパー仕様1.1

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。


以下は5月28日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-super-duper-feature-1-3-intelligent-spdif-voted-1-by-you-page-43/585#post_10585670

デュアルコア・バーブラウンDAC
背景


DACチップセットをもうひとつ追加すると、そのためにパーツも追加することになるので、その際のコストの制約によって、どんな価格のDACも、チップセットを2つ以上使っているものはほとんどありません。 しかし、micro iDSDはチップセットを2つ使っています。ですから、“デュアルコア”なのです。

技術の説明

DACをダブルにすると、ノイズフロアが3dB下がり、チャンネルセパレーションが改善されます。平たく言うと、他の電源の改良と高度なチャンネル分離技術とも相俟って、micro iDSDのノイズフロアは半減しているのです。これらすべてが、傑出したソニック・パフォーマンスを生み出すのです。

聴く人にはどのような恩恵があるのか

内声部の解像度の改善、音質の改善。もっと肉付きの良いサウンド – そのためこの企画のコードネームは「ミーティー・モンスター」(肉付きの良い怪物)になりました。事実この仕様はあらゆるジャンルの音楽に重量感を与えます。これを適切に説明するには、他のDACと比較するのがいちばんです。他のDACでは、骨の部分だけを聴いているように感じることがありますが、micro iDSDはその骨に肉を付けるのです。低音が豊かであることと混同しないでください。すべての楽器が、すべての強弱において、真剣さを増すのです。

高域をサラ・マクラクラン、低域をジュリア・フォーダムが担当した音楽を聴いてみましょう。Micro iDSDを使用することで、これらのふたりの歌手のリアルさが増し、解像度が高くなります。ライブを聴いたことがある人でも、「ほんとだ、リアル以上だ」と言うでしょう。



涙ものです。ティッシュをどこに置いたっけ?

micro iDSD開発(5)ファイナル・カウントダウン

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。


以下は5月28日の投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-super-duper-feature-1-3-intelligent-spdif-voted-1-by-you-page-43/555#post_10583107

ファイナルカウントダウン
We are truly sorry… ほんとうに申し訳なく思っています。
micro iDSDのベータ版を東京とミュンヘンでお見せしました。
それを見ただれもが驚きました。
しかしながら、私たちは恥じ入らなければなりません。
みなさんをがっかりさせてしまいました。東京とミュンヘンでお見せしたベーターユニットと同じ仕様のmicro iDSDを生産することは不可能だったのです。
こうなるはずではなかったのですから、運命と言うしかありません。このスレッドの当選者のみなさんは、ベータ版micro iDSDに近い性能の製品を受け取ることはないでしょう。予約リストのみなさんも同様です。
真実をお知らせしましょう。まったくの真実、真実以外の何ものでもないこと。。。
製品版micro iDSDは、ベータ版micro iDSDを壊滅させることになるのです!!!
製品版Micro iDSDは、ベータ版micro iDSDを過去のテクノロジーと思わせることになるのです!

ここ数ヶ月、安全な山腹の施設で、iFiの秘密研究開発チームは深夜まで残業し、まもなく登場することになるmicro iDSDに絶対にとんでもない特長を盛り込むために、ビーバーのようにせっせと働いたのでした。
nano iDSDは、後に続く人たちのために道を開いています。micro iDSDは、これまででももっとも進んだ製品になるでしょう。高度なDAC界の下にある地面が、もう揺れ始めています。
製品版micro iDSDは、オーディオ界を新たな別の次元へと牽引することになるでしょう。そう、それが現実なのです。

micro iDSDの正式な世界リリース(7月初旬)が近づくのに合わせて、製品版micro iDSDのぶっとびの仕様を徐々に発表するつもりです。このクラウドデザイン・スレッドで提案された仕様はすべて私たちの心に留め置きました。それを念頭に置いて走り、さらに“ファクターX”を加えたのです。
これらすべてが頂点に達して、micro iDSDは他のすべてのDACを悶絶させることになってしまうDACヘッドアンプになるのです。ジェラルド・R・フォード級の航空貨物機がフォード級の護衛艦が何隻も浮かぶ海にあるようなものです。











Source: http://en.wikipedia.org/wiki/The_Final_Countdown_(film) (1980 movie)

ファンタスティック・スリー
仕様は2つのカテゴリーに分類できます。

カテゴリー1. “Outta this World (OTW)”(この世のものとは思えない)
これは3つあり、どれもが唖然とするほどの高性能です。これを衝撃度の弱い順にお知らせするつもりです。

クイズがお好きでしょうから(私たちもですけど)、それが何なのかヒントを出す形で楽しんでいただきましょう。

− これら3つの仕様のすべてをだれが最初に推測するのでしょう?

− みなさまの中のどなかたかで、ヒントが全て出そろう前に、これら3つの“Outta this World”の仕様をうまく推測できる方はいますか?

− ヒント:OTW仕様#3の最初のヒントを得るには、上図を見てください。

カテゴリー2. “Super Duper (SD)”(スーパーデューパー)
iFiの仕様のすべてをカバーします。新しいものもあれば、AMRからのお下がりもあります。他の iFi製品(このクラウドデザイン・スレッドでみなさんが投票したもの)をそのまま持ち込んだものもあります。

確実なのは、どの仕様も細葉巻サイズのmicro iDSDからあまりにすばらしいサウンドパフォーマンスを絞り出すので、 micro iDSDで音楽を聴くのを止められなくなるということです。聴く度ににやっと笑うのを止められなくなりますよ。

本日このmicro iDSDのプロトタイプの最終形を見ましたが、これがいかに“仕様の充実した、唖然とする音質の”ものであるのか、今なお信じられません。

騒がれて話は大分広まりました! 準備はいいですか? 私たちは準備OKです!

2014年6月3日火曜日

micro iDSD開発(4) ソフトウェア・デザイン・チーム日誌(2)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は5月22日のHead-FIへの投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-software-teams-notes-arm-real-time-like-jack-bauer-page-43/525#post_10569555

マーク&ゴードンのハードワーク・パート2は、XMOSの“スター・クロッキング”方式です。
気に入っていただけると思いますよ。

ソフトウェア設計チームのメモ(2)
XMOSプログラム – スター・クロッキング方式

まずXMOS USBプラットフォームがあり、そして今iFi XMOS USBプラットフォームがあるのです。

XMOSの内部には、iFi-XMOSを動作させる際の革新的な “スター・クロッキング”方式があります。これは、他の多くの人々が使っているXMOSによってもともと提供されていた伝統的な“デイジー・チェーン”クロッキング方式から出発した、大きな進歩です。

なぜか? ストックされている(手が加えられていない)標準添付のXMOS USBのプラットフォームに関して言えば、私たちは全体のジッター・レヴェルに100%満足しているわけではありませんでした。特に、ハイスピードの信号には不満を感じていました。そのため、私たちの上級ソフトウェア・エンジニアたち(彼らは軍事防衛プログラムの経験を持っています)は、何日も徹夜してXMOSの標準的なソースコードを研究し、標準的なXMOSは伝統的な“デイジー・チェーン”クロッキング方式を使っていることを発見したのです。この“デイジー・チェーン”クロッキングは、スピードの遅いオーディオ信号ではまったく問題ないのですが、ハイスピードのオーディオ信号では最高のトポロジーではないのです。

彼がこれを発見できた理由は、彼が以前に軍事プロジェクトで働いていた時に、Ada(そう、Adaです)で全プログラムを書いていたからです(Adaは、最初のコンピューター・プログラマーと広く考えられている、Ada Lovelace エイダ・ラヴレイス(1815-1852)にちなんで名付けられました)。
(訳注/Adaは、米国防省が中心となって開発した高水準プログラム言語。「エイダ」と発音する。)

この背景を知るには、以下を参照してください。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ada_(programming_language)

Adaで軍事レヴェルのことをやる理由のひとつは(もちろん、他にも多くの理由があるのですが)、リアルタイムで要求されることがあるからです(彼は以前に空対空ミサイルの標的システムの開発をしていたことがあるのです!)。

ですから、すべてがリアルタイムでなければならず、タイミングを外すエラーは許されないのです。換言すれば、この男は“タイミングに超敏感”なのです。








これを発見した後に、彼はXMOS USBプラットフォーム内部の全クロッキング・トポロジーの設計をやり直し、“スター・クロッキング”方式を利用しました。これは彼が、以前にミサイル標的システムの開発チームの一員だった時に使っていたものなのです。

これをオーディオに導入するには、以下のJVCの“K2”マスターリング・グレード・クロッキング方式に似たものを引用することができます。


カスタマイズされたiFi-XMOSの内部で、XMOSのソフトウェア・モジュールのすべてがそのレフェランス・クロックを単一の、超低ジッターのマスタークロックから得ていたら、“どうだろう”と、想像してみてください。

まさにこれが起きており、これが全体のシステムのジッターを著しく改善しているのです。そしてこれは、容易に耳で確かめることができます。アタックと減衰がよりはっきりと聞こえ、すべてが精確に再現されるからです。

続くパート3は、マイクロプロセッサー編です。


(2014.09.13)music to go! 佐々木様のご指摘により、訳の一部を修正しました。

2014年6月2日月曜日

micro iDSD開発(3) ソフトウェア・デザイン・チーム日誌(1)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は5月14日のHead-FIへの投稿------------

http://www.head-fi.org/t/693505/ifi-idsd-no1-seller-in-japan-xmos-software-notes-as-you-guys-asked/30#post_10545810


最新のファームウェア・アップデートで、このアップデートを提供しようと考えたのは、実に良いタイミングでした。iFIのXMOSソフトウェアが社内で最適化されると私たちが言う時には、まさにそのとおりのことが起こるのです。最新のファームウェアは、iDSD以外のiFi製品には決して使わないでください。そしてまた、どんな状況でも、XMOSを使用しているAMR、iFi以外の製品に、このファームウェアを使わないでください。うまくいきませんから。

Without further ado. あとはごたごたもなく。

ソフトウェア設計チームのメモ(1)

 トルステンと彼のチームばかりが脚光を浴びているので、この際みなさんをマーク、ゴードンとそのチームに紹介した方が良いのではないかと考えました。彼らはソフトウェアの部門を引っ張っているからです。彼らは良い人たちですが、ソフトウェアを開発している“だけ”なので、マスコミにはそれほど登場しないのです。

iFI-XMOSの解決:すべては8コアのCPUと磨き抜かれたコーディング

ソフトウェアの設計において、使いやすさという点で言えば、Appleが王様であることは議論の余地がありません。
たしかに、私たちはAppleと対等にはなれませんが、新製品が出る度に、人間として可能な限り使いやすさを改良するために最善を尽くすことはできます。

micro iDSDも例外ではありません。XMOSとマイクロプロセッサーの両方のレヴェルで、前例がないほどの最適化が実施されています。典型的なユーザーには、 それは目では見えないでしょうが、耳では違いがわかると思います。

XMOSチップセットからスタートして、現在は最新のU-series XMOS Octa(8)-Coreチップを採用しています。

USBオーディオ用には、6コアのチップで十分以上だというのが伝統でしたが、私たちはさらなる特徴をたっぷりと盛り込んでおり、XMOSの内部クロックを最適化するには、さらに2コアが必要になるのです。

これは、ダブル・コア・コンピューター対シングル・コア・コンピューターのようなもので、ベンチマークテストや実際の使用ということになれば、比較になりません。

XMOSプログラミング – CPU負荷の最適化
XMOS USBプラットフォームがあり、iFi XMOS USBプラットフォームがあります。

micro iDSDは8(Octa)コアXMOSチップを使っています(一般的に使われる6コアではありません)。私たちの経験では、最高のオーディオ・パフォーマンスを得るには、各コアの負荷が最適化される必要があります。しかしながら、XMOSの開発ツールは、各コア及び全コアのリアルタイムの負荷をモニターできるツールを提供してくれません(Windowsのタスクマネージャーを考えればわかるでしょう)。その結果、私たちは前に進んで、XMOSのリアルタイム負荷モニターを自ら開発したのです。

最適化の前のXMOSコアへの負荷
• 全体的には、非常に不均一な状態で、非常に高い負荷もあります。“ピーク”に達しているものもあるのがわかるでしょう。







次に私たちは、コア負荷に全面的な最適化を行いました(データ入力を終えるまでに数ヶ月かかりました)。今では私たちは夜によく眠れるようになりました。 すべてのiFi製品上で作動するXMOSはオーディオ用に全面的に最適化されているのを知っているからです。その結果は、簡単に耳で聞くことができます(みなさんも同様に聞き取れると思いますよ)。

最適化後にXMOSコアに負荷を与えること
• 各コアにより低い、スムーズな負荷を与える
• 特にオーディオに関係するコアには、最低のもっともスムーズな負荷を与える







さらに次はこれが待っています – XMOSの“スター・クロッキング”方式です。

Edited by iFi audio - 5/14/14 at 5:18am



micro iDSD開発(2) デイザイナー日誌(3)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は4月18日のHead-FIへの投稿------------

http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-design-super-duper-1-2-different-strokes-for-different-folks-re-digital-filters/450#post_10518630

デイザイナー日記(3)
オーケー、しばらくじっとしていたように見えますが、実はその背後でmicro iDSDのプロトタイプで手一杯だったのです。このプロトタイプのひとつを、日本のFujiya-Avicが主催するヘッドフォンフェスティヴァル(5月10ー11日)に向けて出荷しようと思っています。
その後、別のプロトタイプをミュンヘンのハイエンドショウ(5月15ー18日)に出品しようと思っています。
現在私たちが動かしているのは、3つのプロトタイプです。


トルステンと彼のチームが最新の情報をくれましたので、ここで紹介します。
各パーツの品質はきわめて印象的なものになりそうで、以下を確認しています。

* 酸化タンタル薄フィルム:抵抗の表面を薄いフィルムで覆い、これによって超低ノイズ&超低歪みが実現できます。

* TDK超安定C0Gが表面にマウントされたキャパシター(コンデンサー):C0G絶縁体はテフロン(かなり理想的です)に近いものです。

* パナソニック PolyPhenylene Sulfide 積層フィルムが表面にマウントされたキャパシター:パナソニックはすばらしい音のキャパシターを作ったという確かな、そして羨望すべき評判を得ています。

* 無酸素銅線による金メッキ4層ボード:かなりのハイエンドですが、コスト的には有利です。







micro iDSD開発(1) デイザイナー日誌(1)

この記事は、micro iDSDの発売を控えたiFIのテクニカル・チームがHead-FIやFaceBookに掲載しているものです。

以下は4月18日のFaceBookへの投稿。--------------

https://www.facebook.com/iFiAudio/posts/682877881747957


デイザイナー日記(1)
みなさんこんにちは。ここ何週間かはきつかったです。できるかどうかを検証し、すべてを合わせなければなりません。1パイントのグラスに2パイントのギネスビールを注ぐようなものです。
今グリニッジ標準時の23時07分で、ケンタッキーフライドチキンのパーティーパックを腹に詰め込んだところです。パーティーをやっているわけではないですけど、micro iDSDの企画が一歩前進しました。
メカニカルデザインは、だいたいこんな感じです。各部がちゃんとフィットするようにできているか、確認しました。デザインの大部分は、ロームリングが最初の数日に示してくれたものに一致しています。色も印象的で、これ以上のものは作れないでしょう。
フロントから見ると、レイアウト的には nano iCANによく似ています。3DホログラフィックサウンドとXバスのスイッチが付いています。
ヘッドフォンジャックは6.3ミリになるでしょう。次の図で唯一わかるのは、フィルタースイッチがケースの左側にスライド式で出っ張らないように設けられていることです。
背面は、左側にSPDIF入出力端子があります。これは大変興味深いものなのですが、詳細は別の機会にお話ししましょう。
2つのRCAライン出力端子は、中央に設置されています。そして、USB入力端子もあります。実物模型を作って、あまり太くない“ハイエンド”のRCA端子がちゃんと接続できるかもテストしています。
こうして、少なくとも外形的には、みなさんが求めるものを盛り込むことができたのです。
続く。。。
チャオ
トルステン



iFIオーディオ主任エンジニア、トルステン博士かく語りき(1)連載インタビュー

アメリカのネット媒体AudioStreamに掲載された、iFI-Audio主任エンジニア、トルステン・レッシュ博士のインタビューを順次掲載します。(翻訳:山本敦)

トルステン・レッシュ博士/2013年秋のヘッドフォン祭(フジヤ・エービック主催)にて

多くの読者はDACやポータブルヘッドホンアンプ、USBパワーサプライ、チューブ・バッファ/プリアンプなど、手頃で良質な製品を展開するiFi Audioについてご存じだろう。我々は同社iFi microシリーズの iDAC(レビュー参照)やiUSB Power(レビュー参照)、アクティヴ・チューブ・バッファプリアンプのiTube(レビュー参照)など数多くの製品をレビューしてきた。

Abbingdon Music Research (AMR)からもアンプ、プリアンプ、スピーカーシステム、ディスクプレーヤー、DACと言った“リファレンス・クラス”の製品群が世に送り出されている。両ブランドの製品開発を担当するチーフデザイナー、Thorsten Loesch(トルステン・レッシュ)氏はPCM 対DSD、人間の聴覚、管球アンプの魅力の核心に迫る、AudioStreamのQ&Aに快く答えてくれた。彼が回答に割いてくれた時間と労力に感謝しつつ、読者の皆様も私と一緒にインタビューを楽しんでもらえたらと思う。


−−−−トルステンさんがHiFi機器の設計に携わるに至った背景を教えていただけますか?

11歳の頃からずっとHiFi機器の設計や組み立てに熱を上げてきました。振り返ればそれより以前からオーディオいじりに興味を持っていて、幼少の頃からいつも音楽に魅了されてきました。

私が旧東ドイツで育った頃、私の家族は部屋の隅の整理ダンスの上にどんと置かれた「Stradivari 3」という名前の、古くて可愛らしい“Dampfradio” (直訳するとSteam Radio)を所有していました(訳注/Steam RadioのSteamは、「蒸気式の」、つまり「旧式の、古くさい」という意味。したがって、Steam Radioは「旧式のラジオ」という意味)。真空管を使用したラジオです。そのラジオに電源が入ると、部屋全体が素晴らしい音に満たされました。私は豊かで、暖かく、ダイナミックな“Dampfradio”の音に引き込まれ、大きなダイアルに書かれたブラザビル、ロンドン、モスクワ、ニューヨーク、北京、ティンブクトゥ、エレバン と言ったエキゾチックな場所の名前に誘惑されたものです。その後、私はこの古いラジオのダイアルに記された、ほとんどの場所を訪れることができたのですが、この話はまた別の機会にしましょう。

東ドイツ製Stradivari 3管球式ラジオ made by Stern Radio Rochlitz

わが家にはまたルイ・アームストロングからオペラ『アイーダ』まで、沢山の素晴らしいLPレコードのコレクションがありました。しかし、使っていたレコードプレーヤーは、小さくて造りの悪い、トップカバーに“薄っぺらく甲高い音の出る”小さなスピーカーが組み込まれたソリッドステート・ユニットの製品でした。私はそのレコードプレーヤーの“薄っぺらく甲高い”音が好きではありませんでした。

私がちょうど小学2年生になって、子供図書館の図書カードを手に入れた頃、小規模だけれどちゃんと選定された図書館のレコードライブラリーから、色々なLPレコードを借りられるようになりました。これが私の音楽の地平を広げてくれました。レコードは充実しているのに、唯一、そのプレーヤーの音質だけが気に入らなかったことをよく覚えています。これが私を悩ませ続けたのでした。

東ドイツ製Ziphona Solid 523 Record Player

私はどうにかして“Dampfradio”を使って、レコードの音楽を聞くことができないものか、試行錯誤しました。簡単にできる方法がなかったので、当時電気工学士だった叔父に聞いてみました。彼はレコードプレーヤーからの出力を、ラジオの入力につなぐための配線を改造する技術を指南してくれ、その信号を伝送するための長いケーブルを作るのを手伝ってくれました。

私はそれから毎日、午後は学校から家まで駆け足で戻り、自宅のレコードを聴いたり、図書館から新しい作品を借りて夢中で聴いていました。キンクス、ジェスロ・タル、ピンクフロイドやビートルズ、そしてヘンデルやバッハたちの音楽を、私はこうして発見したのです。

私はまた、音楽をすばらしくもひどくも響かせることのできるこの技術にも惹かれるようになりました。私は電気工学の本を読み、独学で知識をつけていきました。それはもう、取り憑かれたかのように夢中になったわけで、それはまずかったですね。やがて5年もしないうちに学校の科学技術展で、お手製のHiFiシステムを披露しました。それには、周波数がデジタル表示されるラジオチューナー、6バンドイコライザー付の100Wアンプ、8インチのウーファー、2インチのミッドレンジドーム、1インチのツイーターを搭載した3ウェイスピーカーなどが含まれていました。自分のまさに最初の“オーディオ機器”を、12歳という高齢で(!)やっと作りあげたのだということを、その時はまだほとんどわかっていなかったのでした。

当時、国内(東ドイツ)のHiFiオーディオ産業は、これに匹敵するように見える製品はまったく生産していませんでした。プロフェッショナル用に限られる3ウェイスピーカー、100Wのアンプ、イコライザーといったものなど、なかったのです。ラジオなどは皆、古風なストリング(カーソル)とポインターチューニング仕様のものばかりです。私が作り上げた製品は、ベルリンの中央図書館から取り寄せた西側の雑誌を借りたり、そしてまた米ドルやドイツマルク(どちらも持っていませんでしたけど)で日本から輸入された最新の製品を買うことができる“インターショップ”を訪れたりして得た知識をもとにしているのです。

もちろん、アルミのフロントパネルの成形や、手作業でのドリルとブラシ、ドライ転写のレタリングによるラベル、ほぼ木製のシャーシなど、仕上げは荒っぽいものでしたが、それでも稼働したし、音もかなり良かったと思います。私はこのシステムのために、学校の授業中に回路の設計やフロントパネルのレイアウトのデッサンに時間を費やしてきました。残念なことに、この最初の製品の写真は全く残っていないのですが。

私は見事1等を取り、転げ回るほど大喜びしました。今日になっても、私たちの作った製品が賞を取ったときは同じぐらいの喜びを感じます。

 “サウンドエンジニアとしての技能を活かしてお金を稼げるようになるために、「トーンマイスター(サウンドマスター)」の資格を得るための約2年間のコースを修了しなければなりませんでした。”
後に私は電子工学を勉強し、一時期小さな個人経営のプロオーディオ企業(当時の共産主義体制では珍しいものでした)に勤めました。国営ラジオ&テレビネットワーク用にミキシングデスクを作っている会社でした。サウンドエンジニアとして、いくつかのバンドにも関わり、PAシステムも組み立てられるようになりました。サウンドエンジニアとしての技能を活かしてお金を稼げるようになるために、「トーンマイスター(サウンドマイスター)」の資格を得るための約2年間のコースを修了しなければなりませんでした。

コースのプログラムには、当時私はハードロックにはまっていたのにも関わらず、クラシックのレコーディングを習得しなければならない科目がありました。クラシックのレコーディングはシングルテイク、ミニマルなマイクセッティング、そして取り直し不可。後でミキシングで修正なんてこともできませんでした。スコア(総譜)が読めなければならず、リハーサルに出て、どうやって古いアナログのコンソールでゲイン調整を行うか、専門的な技術を習得しなければなりませんでした。

夜な夜な生演奏に参加しながら、レコーディングとライブ両方のサウンドワークを担当し、それに私が力を注いできたプロのオーディオ設計(それは非常に“職人的”な仕事なので、多くの時間を費やしました)が組み合わさったことによって、私がUltra-Fidelityのオーディオコンポを設計する際に今日までなお拠りどころにしている真の基盤が形成されたのです。その後、私はイギリスへ移住し、コンピューターサイエンスで2級の資格を獲得し、財務コンピューターシステムでのキャリアを開始しましたが、オーディオエレクトロニクスへの情熱は片時も失うことがありませんでした。

Joe Roberts 氏の“Sound Practices”マガジンとの出会い、そしてインターネットの普及の草創期でのメーリングリストを通して、私の管球サウンドへの愛情は復活しました(LPレコードへの情熱を失った事はありませんが)。私はすっかり“Ultra-Fidelity audio”の集団に深く関わるようになりました。欧州人として、ドイツ人として、私はまたフランスの流行にも触れて、スイスや(西)ドイツのオーディオシーンにも囲まれて育ちました。日本の「MJ無線と実験」誌や「ラジオ技術」誌には多大な影響を受けました。電子工学のしっかりした背景と経験を持っていることが役立ったのは、間違いありません。



私自身もレビューや技術論文を、Webマガジンの開拓期に登場してきたTNT-Audio, Enjoythemusic.com そして “VALVE the magazine of astounding sound”などの媒体に、折に触れて寄稿してきました。他の人々が設計を商品化し始めた頃には、私は事実上すでに“オープンソース”のDIYキットを完成品に組み込んで販売するようなことをやっていました。その後、私はハイエンドオーディオのビジネスに引き込まれ、私とパートナーたちでAMRとiFiを始めたのです。(続く)