本レビューは、世界的なオーディオ評論家 マイケル・フレーマー氏が主宰するオーディオWebマガジン Analog Planetに掲載されたレビューの日本語訳を、許諾を得て転載するものです。また、iFi audio製品については国内価格表記としております。原文は以下URLよりご覧ください。
https://www.analogplanet.com/content/ifis-cost-object-zen-phono-mmmc-phono-preamplifier
iFiの「低価格を目指した」ZEN Phono MM/MCフォノプリアンプ
マイケル・フレーマー(2021年3月8日)
iFiのZEN Phonoプリアンプは、同社のはるかに高価格な(151,800円[税込])、機能満載のmicro iPhono 3 BLの、煩雑だが微細な調節ができるディップスイッチを搭載した操作システムをずっとシンプルなものに置き替えているが、それでもなお、印象的な機能、高品質な作り、優良なパーツをすべて揃えながら、それを24,200円(税込)で提供してくれる。
コンパクトなZEN Phonoは、ゲインを36dBから72dBの間で調節することができ、しかもノイズフロアは驚異の-151dB、そしてスイッチで切り替えることができる有用なサブソニック・フィルター、バランス出力を備えているという、この価格帯では聞いたことのない仕様である。micro iPhono 3 BLと同じように、パーツの品質は高く、TDKのC0G Class 1セラミック・キャパシター(テフロンの品質に近いとされる)をパラレルで使用することで耐久性が高まっている。iFiは、RIAAの誤差レベルを±0.15dBに保っているとしている。iFiの低ノイズ・低歪みのオペアンプとともに、パナソニックのECPUキャパシター、テキサス・インスツルメンツの低ノイズICも使われている。
コストを低く抑え、調節機能をシンプルにしたので、負荷を調節することができなくなっているが、代わりに、固定負荷を選択できるという賢い設計がなされている。MMは標準的な47kΩ(負荷容量は実用的な110pF)だが、MC HIGHも同じく47kΩに設定されている。というのも、すべてとは言わないまでもほとんどの高出力MCカートリッジは47kΩの負荷になるように設計されているからである。MC LOWの負荷は1kΩに設定され、MC V LOWは実用的な110Ωに設定されている。
予想を大きく超えた実力
私はステレオファイル誌のためにSMEのModel 6ターンテーブル($9000)の批評を書き終えたところである。SMEがOrtofon Cadenza Black($2729)を提供してくれ、私が批評用に2M Black LVB($999)を持っているので、ZEN Phonoを高品質な低出力MCカートリッジと非常に優れたMMカートリッジの両方で試聴する機会が得られることになった。どちらも、ボロン・カンチレバーと、「シバタ針」を使って組み立てられている。この機会はまた、この2つのカートリッジを比較することも可能にしてくれたのだが、それはまた別の批評で論じたいと思う。
ZEN Phonoは、出力電圧0.33mVのCadenza Blackと組み合わせても、著しく静かであると言うことができる。しかし、聞こえないもの(つまりノイズがないということ)の向こうで再現された音楽は、驚くほど洗練されていた。オーディオ・システムではよく言われることだが、フォノプリアンプは、システムに接続されている一連の機器の中ではいちばん「弱い」も同然のものである。ここではiFi ZEN Phonoは、Model 6ターンテーブル、darTzeelのアンプ、Wilson Audio SpecialtiesのスピーカーXVX(ちょうど批評を書き終えたところだが、まだ出版されていない)というチェーンの中ではもっとも安価なものであり、もっとも「弱い」ものであるということができるだろうが、それを知らずにこのシステムを聴けば、どこをどう取っても24,200円(税込)のフォノプリアンプを聴いているとは到底想像できないだろう。
ひとつには、背景の「黒さ」が価格を隠していると言えるが、別の言い方をすれば、このフォノプリアンプの空間感の再生は堅固で、安定しており、三次元的だったのである。これが可能なフォノプリアンプはめったになく、「安物」にはまず無理だろう。ZEN Phonoの音色のバランス、そして特にロウエンドの伸びは、この価格帯の製品のあらゆる予測を超えている。私は安価なフォノプリアンプを手近なところに「揃えている」わけではないので、ZEN Phonoと比べることはできないが、micro iPhono 3 BLと比べることはもちろんやってみた。ZEN Phonoは、これよりもずっと高価なmicro iPhono 3 BLの空気のような、開放感のあるトップエンドや、パンチの効いた重みのあるボトムエンドこそ持ってはいないが、この製品と一緒には使われそうにないフル周波数帯域再生が可能なハイエンドのスピーカーで聴くと、驚くほどそれに近いことがわかるのである。
バンジョー奏者のティム・ウィードの、きわめて楽しい、そして美しく録音された「5弦バンジョーとオーケストラのための協奏曲」(そういう題名は書かれていないので、「」を付けてそんな感じの題名にしてみた/The Plant Studios Records TPSR0009)は、ここでのビッグな機器とZEN Phonoプリアンプで聴くと、その本来の鳴り方に近いものであり、音楽が進むに連れて楽しい驚きとなった。
ウィードのバンジョーは、オーケストラの前で三次元的に見事に提示され、トランジェントは、ソフトでもなければシャープ過ぎることもなかった。豊かに録音されたオーケストラ(チェコ共和国プラハのSONO Recordsでの録音)は、ソロ・バンジョーの背後に見事に広がり、豊かでシルキーなヴァイオリン群(そして重厚な弦楽セクション)を再現し、木管楽器を明瞭に聴かせてくれる。全体の印象としては、micro iPhono 3 BLを含むもっと高価なフォノプリアンプに比べると、微細な強弱感が失われ、高域と低域の最先端の伸びが削がれるが、現実に戻ろう。これは24,200円(税込)の機器なのである!
Blue Noteの「Classic Vinyl Series」のリリースの中にも、同様に満足度の高い結果を示すものがあった。ZEN Phonoの静かな背景と精緻なトランジェントを聴かせてくれるのである。題名になっている「Song For My Father」(Blue Note ST-84185/0744043)でのホレス・シルバーの舞台中央のピアノは、黒い背景の中で奏されるが、それは24,200円(税込)のフォノステージに期待できるものをはるかに超えている。右チャンネルのジョー・ヘンダーソンのテナーは、満足度の高い重厚なサウンドである。ロジャー・ハンフリーのサックスのすぐ後ろのリムショットは触って感知することができそうなほどであり、木質感も感じられ、その上でシンバルが見事に鳴り響く。
これくらいにしておこう。ここで聴いているだれもが、私がもっとずっと高価なものに切り替えるまでは、24,200円(税込)のフォノプリアンプを聴いているとは思わないだろう。それほど見事な音である。
確かに私は、比較のために他の同価格のフォノプリアンプを取り揃えているわけではないが、この製品は、その無比の超低ノイズフロアだけでも、トップに位置するものであると、かなりの程度確信している。サブソニック・フィルターも説明どおりに作用し、反ったレコードによって生じる低域のウーファーのばたつきを、低域のレスポンスに感知できるような影響を与えることなく除去してくれる。
結論
iFiのZEN Phonoは、まったくシンプルで頭を使う必要のない製品であり、すぐにもお薦めできるものである。正直な音色を持った、特別に静かなMM/MCフォノプリアンプであり、それが最下限の価格に設定されながら、その価格等級よりもはるかに上のパフォーマンスを示すのである。
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